東京高等裁判所 昭和31年(う)2295号 判決
被告人 松田三郎
〔抄 録〕
弁護人の控訴趣意第二点について。
論旨は、本件訴因は暴力行為等処罰に関する法律違反の事実であり、罰条としては同法律第一条第一項が掲げられているのにかかわらず、原判決は訴因の追加変更の手続によることなく、被告人の所為を脅迫罪と認定したものであつて、かかる訴因の変更は許すべからざるものであるから、結局原判決は審判の請求を受けた事件につき判決せず、又は審判の請求を受けない事件について判決したことに帰し、破棄を免れない、というのである。よつて記録を調査すると、原判決は、「被告人はその配下である龍康殿龍始外一名と共謀して昭和二十八年十一月中旬頃東京都江東区深川常盤町一丁目四番地加瀬勇治方において前記龍康殿らにおいて被告人松田の命を受け前記加瀬に金員支払の督促をするにあたり、前記加瀬勇治の妻慶子当三十二年に対し「俺達は子供の使ではない、おやじに会わせろ」などと怒号し、同所において即時どのような乱暴を働くかも計られない気勢を示して同女を畏怖させ、もつて数人共同して同女を脅迫したものである」との暴力行為等処罰に関する法律違反の公訴事実に対し、被告人が龍康殿龍始と共謀の上加瀬慶子を脅迫したとの刑法所定の脅迫罪に該当する事実を認定していることは所論のとおりである。しかしながら右暴力行為等処罰に関する法律違反の事実は、要するにその本体は数人共同して行う加重脅迫罪ともいうべきものであつて、原判決はその公訴事実の範囲内において、被告人に有利に、これを単純脅迫罪と認定したものであり、かかる場合は特に訴因変更の手続によることを要しないものと解すべきであるから、たとえ本件起訴状記載の公訴事実がその罪名は暴力行為等処罰に関する法律違反、罰条は同法律第一条第一項に該当するものとされているとしても、右は所論のごとく、被告人の防禦権を妨げ、被告人の訴訟法上の利益を剥奪したものということはできない。またもとより、原判決は、これがために、起訴状に記載された公訴事実について審判せず又は審判の請求を受けない事件について審判したものということはできない。畢竟、論旨は理由がない。
(花輪 山本 下関)